双極 〜始まりと終わり〜 序 






動峰中学校のテニス部の部長、橘は部活の最中、後輩の神尾に声をかけた。

神尾はいつものように振り向いた。

橘は険しい顔をして、中々言葉を発しなかった。

「橘さん?」

神尾は心配して名前を呼んでみたが、橘は用件をいうこともなく

「神尾、最近…いや、やっぱりいい…」

そこまで言いかけて、その場を去っていった。


その日の部活の帰りに神尾は伊武と一緒に帰った。

2人は親友で家も近い。それもあって一緒に帰ることが多い。

「なぁ、深司。最近、橘さん変じゃねーか?」

部活の時の橘の様子が気になって、伊武に聞いてみたのだが当の本人は面倒そうに応えた。

「俺よりもアキラの方が一緒にいるのが多いのに、俺に聞くわけ?」

神尾は橘のことを尊敬し、兄のように慕っている。

それもあって、他の者よりは橘と一緒にいることが多い。

そんな神尾に伊武は小さく溜息を吐いた。

「相変わらず、アキラは鈍感だね」

伊武の言葉の意味は神尾にはわからなかった。




次の日

部活が終わったあと、神尾は橘に声をかけた。

昨日の橘さんの言葉が気になったからだ。

「どうした、アキラ。何か困りごとか?」

橘はいつもと変わりなく返事をした。

「昨日、言いかけた言葉が気になって…」

「あぁ、あれか…」

橘はそう言ったあとしばらく黙った。

「…深司のこと…どうなんだ?」

テニスコートの横に設置されたベンチに神尾と橘が立っていた。

「どうって?深司とは友達で…」

そのことは橘も知っているはずなのに、何故それを聞くのだろうか。

「2人が親友だということは知っている。だが、あえてお前の口から聞きたい。アキラ、俺は…お前が好きだ…」

 橘はそう言った。

静かな沈黙が2人を包み込んだ。

「橘さん…?」

神尾は一瞬何を言われたのか分からなかった。

頭の中が真っ白になるくらい、思考が働かなかった。

「スマン、アキラ。迷惑なら忘れてくれ…」

橘はいつもと変わらない声で、そのまま立ち去って言った。

その場には神尾だけが取り残された。

「アキラ」

しばらくしてから、背後から不意に声をかけられた。

我に返った神尾はその声の方を振り向くとそこには伊武が立っていた。

「深司」

「一緒に帰ろう」

2人はそのまま部室へと向かった。

神尾はそこにいつから伊武がいたのかまで頭が回らなかった。


部室には橘が2人を待っていた。

「遅いぞ、2人とも」

部室に入るなり、橘に一喝された。

神尾は橘からの告白が忘れられず、まともに顔が見れなかった。

とくに会話もなく、神尾と伊武は帰り支度を終えた。

「橘さん、お疲れ様です」

神尾は気まずいまま、橘に挨拶し、部室をでていく。

伊武もつづいた。

一人残された橘は2人の姿をみて、唇をかみ締めていた。






つづく